‡‡‡ Each considers ‡‡‡




『このメールを3日以内に5人の人に送らないと、
 あなたの幸せは確実に逃げていってしまいます♪

 幸せになりたいですか?』





「………な、なりたいに決まってるじゃん…」


相変わらず送られてくるチェインメール…。
無視すればいいんだろうけどね。
なぁんか気になっちゃうんだよねぇ。
このメールの何処から来るのかわからない自信が。
だから思わず送ってしまう………。
こんなんで、幸せになれる確証なんて無いのに…。


「5人かぁ………面倒だから、登録の上から5人に送っちゃおv」
宛先追加で5人分のメアドを入力していく。
途中あまり見慣れないメアドがあったけど、無視しちゃえ。

それにしても………ここ、寒いっ!
いや、外にいる私が悪いんだけどさ。
構内の暖房効きすぎで、頭ぼわぁ〜ってしてきちゃうんだよね。
休みの時くらい外に出てないとやってられないよ。
だから、渡り廊下から中庭へと通じる道(未舗装)に出て、携帯メールに送られてきたチェインメールを見てたりする。


「よしっ、送信っっと」


ピッっという短いボタン音がした後、気が付いた。


今送った中に一つだけ見慣れないメアド。


あれは………。


「し、しまった………」
『送信しました』というメッセージが映し出されている携帯を思わずジッと見つめてしまった。
今更取り消す事もできないし………。


『メールが着いたみたいよ?メールが着いたみたいよ?メール……』
「あぁ?」


私のほぼ真後ろで、女性の声でメール到着を告げる着声…。
それを聞いて疑問の声を発する男性。
思わず、しゃがんで、その男性の視界から消えた。
渡り廊下の壁に感謝してしまう…。
無かったら丸見えだもん、私。


「メールですか、悟浄?」
「ん〜………んだよっチェンメじゃねぇかよ…」
「知ってる人からですか?」
「いや、知らねぇヤツから」


すみません、それ私ですっ。


思わず言ってしまいそうになる声をグッと我慢して、この二人……我が大学のアイドル八戒と悟浄がいなくなるのを待つ。

普段ならこんな事しませんっ。
もったいないっっ。
逢おうと思っても、何処にいつもいるのか分からなくって、逢えないことの方が多いんだから。

でも、今は無理っ。
まぁ…そ知らぬフリすればいいんだろうけど…。
私そこまで自分を演じる自信ないしね。


「どんな内容なんですか?」
「ん〜…幸せになれるっていういつものヤツ?」

えぇ、そうです。
いつものヤツなんですよ。

「なぁんか最近多いんだよなぁ…なんで俺のメアド知ってんだ?」

なかなかそこから二人が離れてくれないっ。
立ち止まって考え始めてしまっているし…。

「あぁ、それはですね。悟浄のメアド、裏で売買されているんですよ」
「はぁっ?!」
「結構な値段で売れているらしいですよ」

……………。
はい、買いました私。
1万で………。
だって…欲しかったんだもん〜…。

「マジかよ〜…」

マジです………ごめんなさい。
こんなコソコソしないで普通に話せたらいいんだけどねぇ…。
くぅ…虚しいなぁ…。



っ!何してんのっv!」


どんっ!


「え?………きゃぅっ!?」


ドシャッ!


「………っ?!」
「……………」

突然しゃがむ私の横に、いつ来たのか、同じようにしゃがむ友人の麗那が私の左側を両手でド突いた。
しゃがんでいた事と、見事なまでの不意打ちで、身体は真横へと倒れていって、前日の雨でぬかるんでいた未舗装の地面へと身体を預けてしまった………。


「だ、大丈夫?」
「……………大丈夫…怪我してないから」
怪我はないけど、服は右側だけ泥まみれ。
髪も、僅かに出ていた足もドロドロだ………。


「うわ…」
「…凄いですねぇ」
「っっ…」
み、見られたっ!
よりによって、こんな姿をっ!
?ごめんね??」
「ぅ………最悪だぁ…」
「え?…………………あぁっ!!」
麗那が気付いて大声を出す。
何に気付いたって………私が片思い中の…メアドまで買ってしまう相手が直ぐそこにいると言う事。
麗那の声に、悟浄も八戒も驚いていたけど…。
「ご、ごめんっ!本当にごめんっっ!!」
麗那が必死になって謝る。
「〜〜〜〜〜っっっ!か、帰るからぁっっっっ!!!!!」
叫ぶように言うと、私は全速力で門の方へと走って行った。






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なんだよぉ〜…。
チェンメ送った瞬間から不幸の始まりじゃないかぁ…。
お、送らなきゃよかった………。
今更なんだけどさ。


「…………………」


皆が見てる……。
コートだけでも脱ごう…。

白のハーフコートを脱いで見てみると、見事に右側にだけ泥がついて茶色く汚れていた。

今年買ったんだけどさ、これ。
泣きそう…。


「…さむっ…」
コートを脱いでしまって、薄手のセーターの下にハイネックのシャツ…一応その首にマフラーはしてるけど…。
濡れた髪も冷たいし…。

はぁ………。
「あ、いたいた」
ん?
後ろの方から聞こえてきた声に振り返ると、紅い髪の兄ちゃん………悟浄じゃんっ!
なんでコッチに向かってきてるわけっ?
いやっ、私じゃない、絶対っ!

と思っていたのに、
「もう帰っちまったかと思ってたぜv」
と言って、私の前に悟浄がいた。



「え、えっと………」
なぜ悟浄が私を追いかけてきたのかが分からなくて悩んでいたら、
「さっきのチェンメ送ってきたのアンタだろ?俺のメアド買ってさ」



…………………麗那っっっ!!!!!



喋った…喋ったなぁっっ!
私が悟浄のメアド買った事も、私がチェンメを無視できないのも、知っているのは麗那だけっ!

「す、すみません………ごめんなさい………」
恥ずかしさと、ショックで、コートを腕に抱えたまましゃがんで悟浄に謝っていた。
「ん〜…事と次第によっては許してもいいけど?」
私と同じようにしゃがんで、俯いている私の顔を覗き込んで言ってきた。
「ほ、本当?」
「マジマジv」
「じゃぁ…どうすれば………」
「こっち来な」
そう言うと悟浄は私の手を引いて、構内へと連れて行こうとする。
「ぅあっ……て、手っ!」
「あ?………あぁ、俺気にしないし?」
私は気にするっていうのっ!
「離したら許してやんねぇよ?」
うっ!
そ、それは困る……。
しょうがないから…手を引かれて、構内へと入っていくことになった。

正直、嬉しかったんだけどね。






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「えっと…悟浄…君?」
「あ〜、悟浄でいいぜ?」
「ぅ、うん…で、何処に行くつもりなの?」
大学の構内を背が高くて目立つ男性が、泥で汚れた女の手を引いて歩いている…。
目立ってしょうがない…。
早くこの状況から抜け出したいのに、手を離すと許してくれないって言うし……。
遊ばれてるっぽい…。

「ここ」
悟浄がそう言って入っていった場所は、どこかの運動系サークルの更衣室。
ここに何の用事が…。
「そこでちょぉっと待ってな」
「ぅん…」
手を離して悟浄が奥へと入っていった。

さっきまで繋がれていた手を思わずジッと見てしまう。
私の手をすっぽり包んでしまえるほどの大きい手。
好きで好きでどうしようもなくって、気がついたらメアド買っているくらい好きな悟浄。
その悟浄と手を繋いでたなんて………。

「こっち来な〜?」

悟浄が更衣室の奥から私を呼んだ。
なんだろうと思いつつ、その声の方にいくと、シャワールームと書かれた扉があった。
声が聞こえてきたのは…この奥だよね…。
う〜ん………。
入るべき?
って考えていたら、扉が開いて、悟浄が私の手を掴んで引っ張り込んだっ。
「きゃっ!?」
突然引張られて、体勢を崩してしまって、ボスンッと何かにあたった。
何にあたったのかと、顔を上げれば、悟浄の至近距離の顔。
私があたったのは、悟浄の胸っ!?
「髪、洗った方がいいんじゃねぇの?」
「え?」
私の手を掴んだまま、悟浄が私の髪を掴んで言った。

た、確かに…洗った方がいいです、はい。
だからシャワールームか…。
考えるまでもないのね…。

「えっと…じゃぁ遠慮なく…」
そう言って、シャワーのコックをひねろうとしたら、悟浄の手が私の手にかぶさって、阻止されたっ。
「俺が洗ってやるからさ、チャンはバスタオル服の上から羽織ってな?」
「な、名前っ、なんでっ?」
「さっき友達がそう呼んでただろ?」
そ、そうだった…。
というか…。
「わ、私自分でやるからっ!」
「いいからいいからv」
そう言って楽しそうに鼻歌なんか歌いながらコックをひねって温度を確かめている。
…諦めた方がいいみたい…。

はぁ………幸せなんだか、不幸なんだか………。

そんな事を思いながらそこらへんにあったバスタオルを服の上から羽織って、服を自らガードした。
「んじゃ、そこ座って」
「…これでいい?」
更衣室にあった椅子をいつの間にかシャワールームにまで持ち込んでいて、そこに私を座らせると、悟浄がゆっくりと泥がついた髪にシャワーを当てて汚れを流していってくれた。


悟浄の指が、私の髪を梳くように洗っている。
優しく、労わるように、丁寧に丁寧に。
その仕草とかが、あまりにも様になっているというか…慣れているというか…。
こういう事、初めてじゃないんだなぁって分かってしまって…。
なんだかちょっと悲しくなってしまった。


思わずチェンメを送った相手が悟浄で、しかもそれを受信する悟浄に出くわして…。
ド突かれ、倒され、泥まみれになって、追いかけてきた悟浄は、私がメアドを買っていたことも知っていて。
手を引いて連れて行かれて、髪についた泥を落としてくれるその指は…慣れていて。



思わず、涙が一滴だけ、零れた。



だけど、髪を洗ってもらっている私は俯いている状態。
悟浄からこの涙が見えないことにホッとする。

しばらくすると、キュッとコックを閉める音がして、水が止まった。
これまたどこかから持ってきたタオルで私の髪を拭いてくれる。

「………綺麗だな」
「え?」
「髪」

あぁ、髪ね…。

「普通だと思うけど……悟浄の方が綺麗じゃない?」
ロンゲの似合う男ってなかなかいないと思うし、そのサラサラ感は、女性の敵のようで…。
「触ってみる?」
「はぃ?」
悟浄の思っても見なかった言葉に、思わず顔を上げたら、驚いた表情の悟浄と眼が合った。
「…泣いてた?」
「えっ!な、泣いてないよっ!」
「でも、頬濡れてっけど?」
ツイッっと悟浄の指が私の頬を撫でるように、涙の跡をたどった。
一気に顔に血が集まってくるのが分かって、顔を背けて、
「シャワーの水が当たっただけだよ」
と答えた。

「……………チャンって俺に惚れてるだろv?」
「な、なんでっ?!」

突然話を変えられて、しかも内容が内容なだけに、思いっきり驚いて、動揺してしまった。

「………おっもしれぇ〜っ。チャン、顔真っ赤だぜ?」
「〜〜〜〜〜っっ!な、なによっ!悟浄の事好きで何が悪いって言うのよっ!!」

悟浄が、本当に面白そうに笑ってそんな事言うから、恥ずかしくて恥ずかしくて、思わず怒鳴るように叫んでいた。

「す、好きな人に、手を引かれてっ、髪触られて、洗われてっ!それなのにっ、それが全部慣れてるように思えてっ!……………あぁ、もぅっ!何言ってるんだろ…私………ゴメン。ありがとう。帰る」

畳み掛けるようにそう言って、椅子から立ち上がってバスタオルを取ってシャワールームから出ようとしたら、バサッっと何かが私の肩に掛けられた。
何かと思って見ると、黒いコート…。
長さは膝下15センチくらいにまでなるロング。
そして、煙草の匂いがする………。
コレって………悟浄のコート?
悟浄が何を考えて私に掛けたのか分からないけど、慌ててコートを返そうとコートに手を掛けたら、
「そのまま帰ったんじゃ寒いだろ?」
と言って、背後から悟浄がコートごと抱きしめてきた。

「ご、悟浄っ!」
「悪ぃ…」
「ご、じょぅ…?」
突然の悟浄の謝罪の言葉と、強まる腕の力に何かを感じたんだけど、それが何なのかよく分からなくて、悟浄を呼ぶんだけど、腕の力が増すだけで、答えてくれない。
「なぁ…は俺の事好きなんだよな?」
か、確認しないで欲しい、そんな事………。
さっき勢いで言ってしまっているから、今更違うとも言えず、
「うん、そうだよ」
って半ば開き直って言った。
「そっか…」
「………ちょっと、離してよっ!」
「やだ」
は?
や、やだって………。
そんな子供みたいに…。
「もぅ…どうすれば離してくれるのよ………」
離してくれなきゃ、コートを返す事もできないし。
「………俺と付き合ってくれるって言ったら離してもいいけど?」
「……………………………その他大勢の一人になれと?」

悟浄の噂は悪いけど色々知ってる。
彼女が複数いるとか、その彼女同士は何故か仲がよく、悟浄を共有しているだとか…。

「あぁ?んだよ、それ?」
「悟浄の彼女は複数で、彼女同士で悟浄を共有しているっていう話」
「…んな事する訳ねぇじゃん?」
自分の事を疑問系で言うのってどうよ…。
「俺って結構一途なんだぜv」
「……………悪いけど、信じられない」
「どうしたら信じてくれるんだ?」

正直、信じたいんだけど…。
だって、信じたら、悟浄と付き合えるって事でしょう?
でもさ…やっぱり気になるんだよ、色々。
だって、好きなんだもん。
好きだから気になるんだよ………分かってよね。

「………しょうがねぇなぁ……っと…ほら、見てみな?」
悟浄が私を抱きしめていた片手を自分のズボンのポケットに入れ、携帯を出すと、私の目の前に出した。
何を見ろと言うのか………。
そう思っていると、悟浄が片手で私を背後から抱きしめた状態のまま、携帯を操作して、ある一つのメモリを表示した。



 



名前のところに私の名前。

えっ?!

私教えてないよっ!

あ、でもさっきのチェンメの時に登録したのかもしれないっ!


「よく見ろよ?さっき登録したって訳じゃねェって分かるから」
まるで私の考えを見透かしたような言葉に驚きつつ、言われたとおりよく見ると…。

「あれ?このメアド、先週までのだ…えっ、番号まで合ってるしっ!」
私は最近メアドを変えた。
けど、悟浄のメモリにはその変える前のメアドが登録されている。
しかも何故か私の携帯の番号まで。
一体どうして…。
「俺が頼んで、八戒に教えてもらった」
「え?頼んで?」
「しょうがねぇじゃん?俺の事好きで、色んなこと知りたかったんだからさ?」
「……………今なんて…?」
さらりと言われてしまったから、思わず聞き返した。

「………好きだ、

ギュゥッっと強く抱きしめられて、耳元で告白されて…。

「………嬉しくて泣きそう〜…」
悟浄の腕にそっと自分の手を添えてそう呟くと、悟浄が私の体の向きを変えて、向かい合う形にした。
「泣いてもいいけどさ、俺の前だけにしろよ?」
「ははっ。すっごい独占欲だね」
目尻に涙を溜めつつ笑うと、悟浄がそっと唇で目尻の涙を拭ってくれた。
「ったりめーじゃん?八戒がを追いかけようとするから、それを阻止して来たくらいなんだぜ?」
「意味わかんない…」
「…泣いてるって思ったんだよっ。そんな、たとえ八戒でも見せられねぇってのっ」
「……………ぷっ……あはははっ。悟浄大好きっv」
「笑ってんじゃねぇよ……………まぁ、そういう所も好きなんだけどな?」
抱きついて笑う私の耳元で囁くように言うと、そのまま耳にキスをしたっ?!

ふ、普通いきなり耳にキスするっ?!






前途多難かもしれない……………。




それでも離れる気も、離す気もないけどねっ。







END




リク内容:チェンメを送ってしまうヒロイン。
あとはお任せと言う事でした。
チェンメは見事に切っ掛けのみの使用(汗)
そして無駄に長いっ、わけ分からんしっ!!(涙)
初めヒロイン、恋する気弱な女の子だったはずが…、後半強気な女に見事に変身…。

当初、もっと八戒氏が出張る予定でしたが、予定は狂いまくってますので、こんな感じです(爆)

相変わらずどうしようもない私…。
返品可能です。
と、とにかく…緋桃さまに限り、お持ち帰り可能です。

 

んふふv髪洗うとか、ツボ尽き過ぎで痛い(笑

チェンメ、送られてくるとウザイですね、私は信じないんで全く誰にも送信しません。

だって、パケ死しちゃうもん(爆